若林 哲平
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スタートアップの資金調達では、エクイティ(株式)だけでなく、デット(融資)をどの段階でどう活用するかが重要になっています。市場環境が変化する中、特に創業初期のシード期では、自己資金や公庫、保証協会付き融資以外にどんな選択肢があるかを把握しておくことで、ランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を適切に確保しやすくなります。
その中で今回取り上げるのが、東京都限定の融資制度「女性・若者・シニア創業サポート事業2.0」です。無担保・無保証で利用でき、女性起業家は最大2,000万円まで借入が可能という、創業期に活用しやすい制度設計となっています。
Gazelle Capital近藤さんと共に解説したYouTube番組内容を基に、制度を正しく理解し、資金調達戦略にどう位置づけるかを検討する際の参考にしていただければ幸いです。
本記事は、既存産業領域のDXを推進するベンチャーキャピタル Gazelle Capital株式会社様が運営するYouTube『スタートアップ投資TV』で私が出演している番組『融資相談室』の中で「【穴場融資】知らないと損!無担保無保証の「女性・若者・シニア創業サポート事業2.0」を徹底解説」についてお話した以下の回を基に、実践的なガイドとして再編集したものです。
無担保・無保証「女性・若者・シニア創業サポート2.0」の対象は?
近藤:まずはどのような制度か特徴を教えていただけますか?
若林:これまで番組でも、日本政策金融公庫さんの新規開業・スタートアップ支援資金や、保証協会付き融資など、公的な融資制度をご紹介してきました。しかし、「他にないですか?」という起業家の皆様からのご相談でご案内するのが、この東京都限定の制度です。
近藤:東京都限定なのですね。対象となる属性はどのような方々でしょうか。
若林:制度名にある通り、まず女性です。それから若者は39歳以下、シニアは55歳以上です。これらの属性の方が、おおむね創業5年未満(女性は7年未満)であること、そして東京都で事業をやるという制限を満たすと使える制度です。
近藤:なるほど。そして、この制度の最大の特徴は、無担保・無保証であるという点ですよね。
若林:はい、そこが最大のポイントです。もう一つの特徴として、この制度が東京都の制度であるため、取り扱い金融機関が限定されています。具体的には、東京都のエリアを管轄している信用金庫さん、信用組合さんが取り扱い金融機関となっています。メガバンクや地方銀行ではなく、指定の信金・信組のみが対象です。
近藤:取り扱い金融機関が限定されているというのは、まさに一つの特徴ですね。
なぜ「穴場」なのか?保証協会ナシで借りられる仕組みとメリット
近藤:この制度が「穴場」と言われる理由の一つに、信用保証協会さんの保証をつけない制度であるという点があるそうですが、これはどういう意味合いを持つのでしょうか。
若林:そうなんです。保証協会なしで受けられるという点が、決定的に重要です。
例えば、公庫の融資も受けました、保証協会付き融資も受けました、という状態で、すぐに次の保証協会付き融資ができそうにない時や、保証協会の現時点での枠が埋まってしまっている時がありますよね。その時に、その他の条件を満たしていれば、次の選択肢として検討できるのがこの制度です。
近藤:まさに、東京都に事業所がある対象属性の方々にとっては、覚えておくべき大きなメリットですね。
若林:その通りです。スキームとしては、登場人物が以下、5者います。東京都が金融機関(信金・信組)に予託金という形で原資を預け、「このお金から貸してね」という仕組みになっています。
- 創業者
- 金融機関(信金・信組)
- 事務局
- 地域創業アドバイザー
- 東京都
近藤:東京都が原資を預ける形なんですね。ちなみに、融資の条件についても非常に優れていると伺っていますが。
若林:はい。まず金額ですが、基本は1,500万円以内となっています。しかし、女性の場合ですと2,000万円以内に設定されています。運転資金のみの場合でも、女性は1,000万円以内まで借り入れが可能です。
近藤:女性は最大2,000万円まで!これは旧制度よりも500万円上乗せされていますよね。
若林:おっしゃる通りです。これは小池知事の肝入りらしく、女性の起業をより促進しようという狙いがあります。特に都内で起業されている女性は、これは狙い目の制度と言えますね。
近藤:シード期のスタートアップであれば、1,500万円あればランウェイが半年近く伸びるなど、非常に大きなインパクトがありますね。
若林:また、金利が固定金利1%以内と非常に低く、公庫さんよりも金利が低くなる可能性もあります。加えて、無担保・無保証です。さらに、返済期間は運転資金、設備資金共に最大10年まで設定可能です。運転資金だけの融資だと、通常は長くて7年程度となることが多いので、10年取れるというのは異例です。据置期間も最大3年まで取れます。
近藤:据置期間が長く、返済期間が10年というのは、非常にスタートアップライクな設計ですね。
・対象:
✔︎ 東京都内で創業を予定or 創業している方で、
・女性
・若者(概ね39歳以下)
・シニア(概ね55歳以上)
✔︎ 創業後5年未満の方( 女性は創業後7年未満)
・融資限度額:最大1,500万円、女性の場合は最大2,000万円
・金利:1.0%以内(固定金利)
・返済期間:最長 10年以内
・据置期間:最長 3年以内(元金返済の据置が可能)
金融機関はプロパー融資として見る?
近藤:公庫の創業融資や保証協会付き融資など、創業期の融資手段は他にもありますが、起業家はどのように選べばいいのでしょうか。
若林:大きな違いは、やはり保証協会の保証がいらないという点です。
民間金融機関さんから借り入れをする際、創業初期は信用保証協会さんが、承諾するか否かと言うかどうかがポイントになります。しかし、保証協会の枠が埋まっている、あるいは審査の目線が厳しいといった理由で頻繁に使えないケースもあります。その点で、保証協会をつけない制度として検討する余地があります。
近藤:条件面では公庫さんや保証協会付きよりも良くなる可能性があるというのは分かりましたが、実際に申し込む際の戦略はありますか。窓口が事務局と金融機関と複数あるように見えますが。
若林:原則は事務局に行く流れかと思いますが、私は先に金融機関に行った方がいいと思います。なぜなら、事務局から申し込んでも、最終的に金融機関がNGと言ってしまえば融資は受けられないからです。
近藤:なるほど。金融機関の意思決定が最終的な成功を左右するわけですね。
若林:はい。ここで独自の視点があります。保証協会の保証がつかないということは、金融機関によってはプロパー融資と同じと見なすケースが結構あるということです。
近藤:プロパー融資と同じ、というと、銀行が直接リスクを負うということですよね。
若林:その通りです。いわゆる貸倒れ引当金といった形で、金融機関の財務諸表でリスクを直接受ける格好になるので、保証協会付き融資よりもハードルを高く見る金融機関も存在するのです。
近藤:それは重要ですね。リスクの目線が異なるとなると、担当者レベルでも審査のプロセスが変わってきそうですね。
若林:ええ。本部に伺いを立てたりするプロセスが増えるため、金融機関の担当者レベルでは、慣れている保証協会付き融資の方がオペレーション的にも「やりやすい」と感じることもあります。だからこそ、すべての金融機関さんがこの制度に積極的とは限らない、というのが実態としてありそうだと見ています。
近藤:だからこそ、窓口を一つに絞らず、保証協会付き融資と本制度の両方を選択肢として話せる状況で金融機関に相談に行った方が通りやすいわけですね。
若林:結果的にはそうです。希望としては「創業サポート2.0がいいんですが」というスタンスで臨む方が、金融機関としても受け入れやすいと思います。事務局より先に金融機関へ相談に行く、これが成功のための重要なポイントです。
狙い目はどこか?積極的に取り組む金融機関を見つける独自情報
近藤:金融機関によって積極性に違いがあるというのは、起業家にとっては非常に悩ましいポイントです。どう窓口を探せばいいのでしょうか。
若林:これは公に確証的なことは言えないのですが、旧制度の時に、多く件数をやってらっしゃったということで表彰されたというリリースがありました。
近藤:過去の実績がヒントになるわけですね。
若林:はい。それは、多摩地区の某信用金庫さんと、四ツ谷に本店がある某信用組合さんです。おそらく、これらの金融機関は他の機関よりも件数を多く手掛けていると想像されます。
近藤:なるほど。これは他では読めない具体的なエピソードですね。もし多摩地区に登記している企業家や、四ツ谷本店の信組さんの管轄エリアの企業家であれば、ぜひトライしてみるべきでしょう。
若林:その通りです。どの金融機関がどういうスタンスかという情報は、私のところである程度入ってきていますが、公開情報ではないためここでは詳しく言えません。
しかし、我こそは条件に合致しているという方は、ぜひご相談いただければ、ある程度お伝えできるかと思います。時間や労力を無駄にしないためにも、積極的に取り扱っている金融機関を見つけてアプローチするのが最速です。
採択率を高める「地域密着」の事業計画とは
近藤:次に、審査で重要視されるポイントや、見られる視点について教えてください。
若林:この制度は東京都というエリアを限定していますよね。そのため、地域に根差した創業、地域の需要や雇用をどんどん創出していくような事業を優先的に育てていこう、というテーマがあります。
近藤:融資の「色」として、ローカルビジネス的な要素が求められるのですね。
若林:はい。事業計画を考えるにあたっては、「地域における需要を創出するものなのか」「地域の雇用を創出するものなのか」という観点で、少しローカルに落とし込んでいただく必要があります「地域に根ざした創業なんですよ」という文脈で訴求する必要があるという点が、他の融資と違うポイントです。
利用の「ベストタイミング」は創業5年以内?
近藤:この融資を使うのに一番ベストなタイミングやシチュエーションはありますか。
若林:先ほど申し上げたように、多くの金融機関がプロパー融資と同じように見ますので、ある程度のボリューム(実績)が出てきているタイミングの方が、金融機関としては取り組みやすい傾向があります。
近藤:公庫や保証協会付き融資をやり終えて、その次に行きたい、というタイミングでしょうか。
若林:まさにそうです。創業5年未満という条件の中で、公庫や保証協会付きを使い、ビジネスモデルとして体制が整い、キャッシュサイクルが見え、成長し始めているような企業さんが適していると言えます。
近藤:どシード(創業直後)のスタートアップだと難しいのでしょうか。
若林:一般的には難しいかもしれませんが、積極的な金融機関さんの中には、どシードの事例も結構あるようです。特に、この制度は女性の起業促進の意図が強く出ているため、女性起業家でドシード、かつ先ほど挙げたような積極的な金融機関の管轄エリアの企業家であれば、すぐにやった方がいいというぐらいチャンスだと思います。
近藤:こうした情報をキャッチアップして戦略的に融資を獲得していくことが、スタートアップが冬の時代を乗り切るための一つの重要な戦略になりますね。
若林:はい。今日は東京都の制度のお話をしましたが、こうした地域限定の制度は、名古屋や福岡などにも結構あります。東京以外の方も、ぜひローカルな制度をキャッチアップしていただくと、使えるものがあるかもしれません。
まとめ:「女性・若者・シニア創業サポート事業2.0」とは?
- 主な対象は、女性・若者(概ね39歳以下)・シニア(概ね55歳以上)の創業5年未満(女性は創業後7年未満)で東京都限定
- 無担保無保証で、融資限度額が1,500万円(女性は2,000万円)で固定金利1%以内、最長10年返済
- 金融機関がプロパー融資として見る可能性があるため、審査のハードルが高くなる点を理解し、事務局より先に金融機関に相談に行く戦略が有効
- 限定的だが、過去積極的に当該制度を実施していた金融機関の参考:多摩地区の某信用金庫や四ツ谷に本店がある某信用組合
- 事業計画は、この制度の目的である地域需要と雇用の創出に貢献する「ローカルビジネス」としての側面を訴求する必要性あり




