若林 哲平
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iPhone初号機との出会いが全てを変えた。
白石:早速なんですが、この湘南ベルマーレさんのサイト。
「TOUCH BELLMARE #ベルマーレに触れ」というこのキャンペーンは本当に新しさを感じさせますね。スピード感のある動画を実際にタッチして、自分が気になった情報を一瞬で選別できるところがとても斬新です。そしてこの動画がまた速い(笑)。
小林:凄く速いでしょう(笑)。
白石:うちの子供も横から面白がって「ウソ〜!」ってつぶやきながらペタペタとタッチしていました(笑)。
直感的に動画から情報を取捨選択できる「TIG(ティグ)」。世界初の技術を開発されたお話をぜひ伺いたいです。早速ですが、小林さんのご経歴から教えてください。
小林:前身の日本テレコムから、ソフトバンクに2007年に買収されソフトバンクになりまして、法人の国際営業本部の中にある映像サービス部に、7年半いました。最初はオペレーターとして、テレビ局さんが使う中継回線の提供をしていたんです。例えば、オリンピックやワールドカップ、ニュースなど海外から生放送で持って来る映像がありますよね。
現地でカメラマンが映像を撮ったものを、衛星とか海底ケーブルをつないでそこに信号流して映像を持ってきているから、ライブで観れているね、という。この管路を提供するという仕事を8年弱ぐらいやってました。そこからSEを経験して、最終的に希望していた営業にシフトしました。
白石:御社のサービス(TIG)は、その頃からイメージはされていたんですか。
小林:きっかけは、iphone初号機(日本マーケットにおける)との出会いです。
当時はソフトバンクがiphoneの独占契約を結んでいたので、営業マンはデモ機を持たされてこれが世の中をどんなふうに、文化なり生活なりを変えていくのかをひたすら考えろと。新しいアイデアを3000本ノック(笑)。
当時、映像を見るツールは、とにかくテレビだけだったんです。だから映像のイメージは、いわゆる「見るための映像」のイメージしかない。でもiphone初号機の登場で、今みんながテレビでみているものの多くがいずれは「これ」でみる時代になるよねと思いました。そこが(TIGのサービスを考えた)入り口です。
白石:部屋にあるテレビではなくて、まさにこの、手元に見るツールがある時代になると。
裏紙50枚にみんなで絵を描いた。
小林:ただ見るだけじゃなくて、動画を使ってもっと面白い何かをするみたいなところに人々の関心や行動が移っていくんじゃないかと考え始めたのが、2009年あたりでした。
白石:その頃からもうTIGのサービスの原型を温めていらしたんですね。では、会社を作ることが前提で独立されたんですか?
小林:そうですね。ただ、この分野の技術開発知識もなかったですし、そもそもこの仕組み(TIG)を作ったとしてもそれを表現できるデバイス(端末)も、それだけの大きいデータを運べる回線インフラも無かったので、独立した当時に実現するのはちょっと無理だったんですよね。
さらには、物販やウェブ、IT系の知識も乏しかったので、とにかく複合的な要素の連携が必要になるTIG事業のために少しでも自分で経験しようと考えました。
なので、まず2011年の春にソフトバンクを退社してすぐにフランスの美容系企業の日本法人の立ち上げに参画して、物販や流通などを経験しました。その後、2012年に僕ともう1人で株式会社インタープレートというリスティング(※1)からDSP(※2)などウェブマーケを軸とした会社を立ち上げ、現在6年くらいになります。
白石:ぶれずにWEBにこだわっていたんですね。
小林:映像を見て、僕らは何かを知るわけですけど誘導される先って結局WEBじゃないですか。「これからはWEB上のプロモーションが大事になる」そう思って、WEBにめちゃめちゃ強い人材と組んで、それで創業です。
白石:WEBと経営。役割分担されたんですね。
小林:そうです。彼がウェブ広告の営業、それ以外の会社経営は全部僕が見てましたね。
白石:株式会社パロニムの誕生ですね。もともとはインタープレートさんの新規事業としてスタートされたんでしょうか?
小林:起業2年目の半ばくらいに「実は僕がやりたかったのはこれなんだよね」という話をパートナーに切り出しました。でも、そもそも予算もエンジニアもいない。じゃあ君は広告の営業をガッツリ回して、僕はそれ以外のこと全部やって、社としてどうやってやっていくかっていうことを学んでいこうと(笑)
白石:なるほど、そうすると・・色んなハードルがありそうです。
小林:むしろハードルしかないですね(笑)。
まずは最初から年間で儲かった利益の2割位をTIGの投資にかけていきました。同時に社員やインターンの大学生とかを呼んで、動画を見ながら「これからはこれを知りたい、この子誰?とか、この人何だろう?とか、このお店行きたいとか思ったときに、動画に触っただけでその情報を知れる世の中になるんだ」と熱弁をふるいまして。
白石:反応はいかがでしたか?
小林:「面白いに決まってるじゃないですか」「でも、面白いのとできるのって全然違いますよね」と前向きなリアクションでした。それで、裏紙を50枚ぐらいパサッと持ってきて、どんなデザインだったら買ってしまいそうか。これはいいね、悪いねってみんなで揉んで5枚ぐらいに凝縮して、最終的に僕がパワーポイントに起こしました。大学1年生のインターンの子や、ITに最も遠い女子社員がその時に出したアイディアは今でもいくつか技術的に搭載されています。
技術的には「今は」難しい。
そこからはひたすらドアノックです。企画書を見てもらって、こんなことできませんか?って。最後にやっとある会社さんにたどり着きました。
白石:すぐOKしてくださったんですか?
小林:実は「技術的には”今は”できません」って言われたんですよ。
(エンジニアを)集めてこないと難しいしすぐは難しいと。規模の大きな会社さんだったので自社メニューの範囲内じゃないと、なかなか人って押さえられない。
白石:それはそうですね・・・。
小林:でもその場にいたPM(プロジェクト・マネージャー)の方が企画書を見て下さって「これは、今開発を始めても、無理です。そもそも今の技術のままでこのスマホが行くんだったら、何年たっても具現化できません。ただ4~5年後にはイメージするレベルまで、スマホの技術が追い付いてくるはずだから開発のゴールをそこに合わせればいいですよね」と。やっぱり、最後は「人」だなと思いました。
白石:スマートフォンの技術革新の見通しが無い中で、(TIGの)開発のタイミングはどうやって合わせたんですか?
小林:タイミングを見誤ってしまうと「TIGが完成した、やったー!」って言ってから、受け皿の技術が3年後だと、それでもう温度は冷めてしまう。それはもう勘ですね(笑)。
白石:面白いな。開発をそこから始められた。
小林:本格的な開発は実質1年半くらいでしょうか。社内でも、そこからまたアイデア出しをしていきました。いわゆる通販チックに欲しくもない情報バンバン押し出されてもただのノイズでしかないし、何より映像をごちゃごちゃ汚したり、世界観を壊すということだけは極力したくない。どうやったら、気軽に動画を見て、知りたいものだけを知りたいタイミングで気軽に取得することができるんだろう。
そんな超ユーザー目線でのデザインを最初の規格に入れたことが今も踏襲されているんです。
気持ちよく、ひと手間を省く。
白石:その結果、どう規格に生かされてるんでしょう?
小林:実はこれって・・営利観点からしたら、ある意味アホなやり方なのかもしれないんですよ(笑)。
だって画面に触れて情報がバンと開いて、CPC(※3)みたいにすれば単純に稼げるわけじゃないですか。
でも、パッと触ってしまっていきなり新たな情報が開いたりどこかに飛ぶと、もうその時点で多くの人はノイズ的意識になってしまうし、次から触ることをためらってしまう。
だから、そうさせないようなUI/UXって何だろうというところに物凄くこだわって行きついたのが「動画に触れて、情報を一旦ストックしておいて、後で気になったものをその人のタイミングで調べる」というスタイルです。
それが本当のCPCだし、CPCやCVR(※4)に繋がっていけばそれでいい。あくまでもユーザーが気持ちよくなきゃいけないっていうところでやっていました。
ずっと一貫して大事にしているキーワードがあって「気持ちよくひと手間を省く」っていう。
白石 気持ちよさがポイントなんですね。
小林:気持ち良さが抜けたら、もう意味がないんですよ。気持ち良くて便利。
ユーザーさんって別に技術の繊細な部分を見てるわけでもない。なんとなくの体感、体験が心地良いか、でその後の利用を判断している。
極端に言えば、動画自体は面白くなくても、なんだか気持ちがいいから触っちゃいたくなるし、また触りに帰ってきたくなるとか。っていうぐらい何となく気持ちいいものじゃなくちゃいけないと思ってるんです。かつ、それが圧倒的に便利であるという世界観を動画から追及していくと、僕らはこういうのが一つの「解」になってもいいんじゃないかなと。
用語の説明
※1:リスティング/リスティング広告 とは、PPC 広告 の一種で、Yahooや Google のような 検索エンジン の 検索結果 に表示される 広告 のこと。
※2:DSP/(Demand Side Platform)の略語であり、インターネット広告において広告主の効果の最大化を目的としたツール。
※3:CPC(Cost Per Click)/クリック課金型広告の効果をはかる評価指標で、クリック1回あたりの料金を指す。「 クリック単価」とも呼ばれる。
※4:CVR(Conversion Rate): ウェブサイト に訪れた人のうち、最終成果に至った人の割合を指す。