若林 哲平
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「なぜあの会社は融資を受けられて、うちは断られたのか」——この疑問の答えは、銀行の審査プロセスを理解することで見えてきます。
融資審査は、ブラックボックスに思われがちですが、実際には明確なフローと評価基準があります。その仕組みを知ることで、「審査が通りやすい会社」に近づくための準備ができます。
この記事では、銀行の審査フロー・格付けの仕組み・稟議の通し方・関係構築の重要性まで、実務の視点から体系的に解説します。
目次
- 銀行の融資審査フロー:新規融資の流れ
- 格付けとは?銀行がどう企業を評価するか
- 稟議とは?担当者が上司を説得するプロセス
- 借り入れしやすい会社の3つの共通点
- バックオフィス整備が審査を加速する
- 銀行員との関係構築が融資の可否を左右する
- まとめ:審査を通すための準備リスト
1. 銀行の融資審査フロー:新規融資の流れ
銀行が新規融資を判断するまでのプロセスは、おおよそ以下のステップを踏みます。
① 初回相談・ヒアリング(担当者が事業内容・資金使途を確認) ↓ ② 書類収集(決算書・事業計画書・試算表など) ↓ ③ 企業の信用調査(外部情報・信用情報の確認) ↓ ④ 格付け(財務データをもとにスコアリング) ↓ ⑤ 稟議書作成(担当者が上位決裁者への報告書を作成) ↓ ⑥ 稟議審査(支店長・本部・信用部門の決裁) ↓⑦ 融資実行
このプロセスで見落としがちなのが、担当者(①〜⑤)の役割の大きさです。担当者は単なる「書類受付係」ではなく、稟議書を通じて会社の魅力を上司に伝える「社内営業担当」です。担当者が動いてくれるかどうかが、審査の行方を左右します。
審査で銀行が見ているもの
- 定量面:決算書の数字(売上・利益・資産・負債・キャッシュフロー)
- 定性面:経営者の資質・事業の将来性・業界環境・顧客基盤
- 返済能力:毎月の返済額を賄えるキャッシュフローがあるか
- 資金使途:何に使うか、その投資は回収できるか
2. 格付けとは?銀行がどう企業を評価するか
格付けとは、銀行が融資先企業の信用力を数値・ランクで評価する仕組みです。企業の財務データを一定の算式でスコアリングし、ランク(例:1〜10段階)で区分します。
格付けが決まる主な要素
① 財務指標
- 自己資本比率(資本の厚み)
- 債務償還年数(借入金を利益で何年で返せるか)
- 流動比率(短期的な資金繰りの安定性)
- 売上高・営業利益の推移
② 定性評価
- 経営者の経歴・資質
- 事業の安定性・競争優位性
- 業界の成長性・リスク
スタートアップの格付けの特殊性
創業期のスタートアップは財務実績が乏しいため、通常の格付けモデルでは低い評価になります。これが「スタートアップは銀行から借りにくい」という構造的な理由です。
ただし、以下の要素があると定性評価で補完できる場合があります。
- VCからの出資実績(第三者評価として機能)
- 著名な顧客・パートナーの存在
- 経営者の業界経験の深さ
- PMFの達成・MRRの安定成長
3. 稟議とは?担当者が上司を説得するプロセス
稟議(りんぎ)とは、担当者が融資の可否を上司・決裁者に承認してもらうために作成する内部文書です。
担当者が稟議書に何を書くか
- 企業の概要・経営者のプロフィール
- 事業内容と収益モデル
- 財務状況と格付け結果
- 融資の目的・使途
- 返済計画と返済原資の根拠
- リスクと対応策
重要なのは「担当者が書きやすい稟議書になっているか」です。
審査が通る・通らないは、担当者が上司を説得できるかどうかにかかっています。企業側がわかりやすい資料を用意し、担当者の「稟議書作成作業」を助けることが、審査を有利に進める鍵です。
審査資料で意識すること
- 図解を使う:文字だけより、事業の仕組みが図で示されていると担当者が理解しやすい
- 将来のマーケット予測を示す:「今」だけでなく「なぜこれから成長するか」の根拠を提示
- 数字の出所を明確にする:「業界レポートによると市場規模は〇億円」など、根拠ある情報を
4. 借り入れしやすい会社の3つの共通点
INQが支援してきた1,300件超の事例から見えてきた、融資審査を通過しやすい会社の共通点です。
① 決算書が「綺麗で分かりやすい」
銀行は必ず決算書を精査します。「綺麗な決算書」とは、科目が適切に分類されており、数字の動きに不自然な点がないものです。
銀行が特にチェックする勘定科目:
- 役員貸付金:経営者への貸付が多額にあると「資金が社外に出ている」として警戒される
- 仮払金・前払費用:実態が不明な項目が多いと疑念を持たれる
- 売掛金の滞留:回収できていない売掛金が積み上がっていると要注意
顧問税理士と「融資を受けやすい決算書」を意識した処理を行うことが重要です。
② レスポンスが速い
融資審査は書類のやり取りが多く、追加資料の依頼が何度もあります。このときの返答スピードが審査期間と印象の両方に影響します。
「この経営者は仕事が速い・誠実だ」という印象は担当者の稟議への積極性につながります。逆に返答が遅いと「経営が雑なのでは」という懸念を生みます。
③ 経営者が数字を語れる
担当者との面談で、経営者が自社の数字をすらすら話せることは非常に重要です。「決算書は税理士まかせで細かいことはわからない」という経営者は、信頼感を大きく損ないます。
最低限押さえておくべき数字:
- 直近の月次売上・利益
- 主要顧客の売上比率
- 現在の借入残高と月次返済額
- 手元のキャッシュと毎月の資金繰り
5. バックオフィス整備が審査を加速する
審査に必要な書類をすぐ用意できる体制があるかどうかは、審査スピードに直結します。
融資審査でよく求められる書類
- 直近2〜3期分の決算書(貸借対照表・損益計算書・勘定科目内訳書)
- 直近の試算表(月次)
- 事業計画書・資金繰り表
- 登記簿謄本・定款
- 代表者の経歴書(履歴書)
- 取引先一覧・主要顧客との契約書
これらをいつでも出せる状態に整えておくことが、スムーズな審査の前提条件です。
外部情報への対策
銀行は融資審査の前に、企業・経営者の外部情報を必ず調査します。
- 信用情報(代表者の個人信用情報)
- 法人の登記情報
- 業界データベース・帝国データバンクなどの企業情報
- Webサイト・SNSの情報
特に代表者の個人信用情報(過去の延滞・債務整理など)は審査に大きく影響します。事前に自分の信用情報を確認しておくことをおすすめします。
6. 銀行員との関係構築が融資の可否を左右する
なぜ関係値が重要か
銀行の融資判断は、財務数字だけでは決まりません。特にスタートアップのように「実績」が乏しい場合、担当者との信頼関係が審査の質に影響します。
担当者は稟議書の中で企業の「強み」を語ります。その強みを引き出せるかどうかは、担当者がその企業をどれだけ理解し、応援したいと思っているかに依存します。
関係構築で重要な「アイスブレイク」
初回面談で担当者との距離を縮めることが、その後の審査の雰囲気を決めます。数字の話に入る前に、事業への想いや創業のきっかけを自然な言葉で話すことが有効です。
堅い資料を見せるだけでなく、「この経営者と一緒に仕事をしたい」と担当者に思ってもらえるかどうかが長期的な取引関係を左右します。
銀行側の「ミッション」を知る
銀行担当者のミッションは何か?融資担当だと、新規獲得件数・融資残高・預金獲得など、決算期に向けた達成へ力学が一定働きやすくなると知っておくと、アプローチのタイミング設計に活かせます。
新規融資を申し込む最適なタイミングは、銀行の決算期(3月・9月)の2〜3ヶ月前です。担当者が自身のミッション達成に向けて動いている時期は、積極的に案件を取りたいという姿勢が強くなります。
7. まとめ:審査を通すための準備リスト
【書類・数字の準備】
□ 直近2〜3期の決算書を整理する
□ 月次試算表を常に最新状態に保つ
□ 役員貸付金・仮払金など不自然な科目を整理する
□ 自社の主要数字(売上・利益・借入残高)を即答できるようにする
□ 個人信用情報を事前に確認する
【関係構築の準備】
□ 創業融資の実績が多い金融機関をリストアップする
(記事参照:https://magazine.inq.finance/post-10772/)
□ 融資を借りる「前」に担当者と会っておく
□ 事業の魅力と返済の根拠を平易な言葉で説明できるようにする
【審査書類の準備】
□ 事業計画書を融資向けに作成する
(記事参照:https://magazine.inq.finance/post-10775/)
□ 資金使途を具体的な内訳で説明できるようにする
□ 返済計画を月次レベルで整理する`
この記事で参照したPodcastエピソード:
- #39 意外と知らない銀行の審査フローとは?
- #40 銀行の格付けとは?
- #41 銀行の稟議とは
- #62 融資を早く・確実にするために知るべき銀行員と支店の事情
- #63 融資審査を加速するバックオフィス整備と迅速な対応の極意
- #64 借り入れのしやすさを決める銀行員との関係構築の重要性と裏側
より詳しい解説はPodcastでお聴きいただけます。




