最近、サポートさせていただいているスタートアップの資本性ローンの融資決定の連絡がありました。
多くのスタートアップから「資本性ローンってどうですか?」とご質問頂きます。
確かに制度概要を読む限りは非常に魅力的な融資制度です。
では実際のところはどうなのか?
複数のスタートアップの資本性ローンの申し込みをサポートしてみての個人的な所感も含めてまとめてみます。
資本性ローンとは?
資本性ローンとは、日本政策金融公庫が行っている、次のような特徴を持った融資制度です。
- 返済期限に一括返済
- 金利は利益に応じて
- 借入なのに金融検査上は自己資本
- 無担保無保証/代表者保証なし
ベンチャーやスタートアップ向けの、比較的出資に近い考え方に基づいた融資制度です。
通常の融資と比較してみるとわかりやすいので表にしてみます。
一般的な融資と資本性ローンの比較表
日本政策金融公庫のその他の融資制度と比較してみます。
資本性ローン | 経営力強化資金 | 新創業融資 | |
対象 | 創業から7期以内 | 創業から おおむね7期以内 |
創業から2期以内 |
返済 | 期限に一括返済 それまでは金利のみ |
毎月 金利とともに 元金も返済 |
毎月 金利とともに 元金も返済 |
金利 ※2018-10-31現在 |
業況によって変動 (1〜6.2%) |
変動なし (2.06~2.65%) |
変動なし (0.86~2.85%) |
着金までの期間 | 2〜3ヶ月 (長いと半年とか) |
約1ヶ月 | 約1ヶ月 |
上限額 | 4,000万円 | 支店決済額 2,000万円 |
支店決済額 1,000万円 |
BS上の 位置づけ |
金融検査上は 資本とみなす |
負債 | 負債 |
担保・保証 | 無担保無保証 代表者保証もなし |
無担保無保証 代表者保証もなし |
無担保無保証 代表者保証もなし |
一括返済 | できない | できる | できる |
経営状況の報告 | 四半期ごとに必要 | 1事業年度毎 原則2回の報告が必要 |
原則不要 |
※日本政策金融公庫には、国民生活事業と中小企業事業があります。
それぞれで資本性ローンの内容も異なります。
ここでは国民生活事業の資本性ローンについて言及しています。
資本性ローンのメリット・デメリット
資本性ローンのメリット
金利のみの支払いでいい
償還期限まで元金の返済がありません。金利のみの支払いです。
(金利は四半期ごとの事業の状況に応じて変動します)
償還期限は5年1ヵ月〜15年の間で決定します。それまでは月々の元金返済が不要なのです。
仮に4,000万円の元金を毎月返済していった場合、返済年数(回数)により、毎月40〜70万円キャッシュアウトすることになります。資本性ローンの場合(返済原資をどう確保しておくか問題はさておき)、毎月40〜70万円のキャッシュアウトがありません。
それだけあれば2〜3人雇用できます。
アクセルを踏みたい時期のスタートアップにはありがたいことです。
無担保無保証
無担保無保証の制度です。代表者の連帯保証もありません。
希薄化を防げる
これは資本性ローンに限ったことではないですが、エクイティ以外の方法でまとまった資金調達することにより、創業メンバーの株式シェアの希薄化(dilution)を防ぐことができます。
金融検査上自己資本とみなす・・・
資本性ローンも借入なのでBS負債の部に計上されるものですが、”金融検査上”は自己資本とみなすことができます。
ただし、「”金融検査上”は自己資本とみなす」というのは、他の金融機関が引当金を積むべき債務に当たらない、というだけです。他の金融機関が確実に資本性ローンを自己資本とみなしてくれるとは限りません。他の金融機関の融資が確実なわけでもありません。その点には注意が必要です。
また金融検査上自己資本とみなせる範囲も償還期限まで5年を切った時点で毎年20%ずつ償却されていきます。
資本性ローンのデメリット
審査の難易度高い
シード〜アーリー期のベンチャーやスタートアップに、特別な条件で、上限4,000万円を融資する制度なので、当然に審査は細かく厳しく、他の制度に比べれば難易度は確実に高いと言えます。
受付は各支店が行うのが原則ですが、各支店での取り扱い件数は多くなく(聞いた話では年間0〜2件という支店もあるとのこと)、支店担当者が積極的になりにくいのも、難易度が高止まりしている要因のひとつにあろうかと推測されます。
時間がかかる
日本政策金融公庫の他の融資制度の場合、支店決済額の範囲内(中小企業経営力強化資金は2,000万円、新創業融資は1,000万円)であれば、支店内で決済できます。
しかし、資本性ローンは必ず本部稟議となります。支店と本部との間のやり取り等もあり、決定までに他の制度より時間がかかります。
2〜3ヶ月(長いと半年)は少なくともかかるつもりで見積もるべきで、数ヶ月中にキャッシュアウトの可能性があるような緊急性の高い状況では、他の通常融資の方が適しています。
結局金利高くなるかも
金利は次の計算式で出した利益率を下記に当てはめて算出します。
売上高減価償却前経常利益率 | 貸付期間 | |||
---|---|---|---|---|
5年1ヵ月以上 7年以内 |
7年超 9年以内 |
9年超 12年以内 |
12年超 15年以内 |
|
5%超 | 5.30% | 5.60% | 5.95% | 6.20% |
0%以上5%以下 | 3.15% | 3.30% | 3.50% | 3.60% |
0%未満 | 1.00% | 1.00% | 1.00% | 1.00% |
(挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)|日本政策金融公庫より抜粋)
利益が出ている程金利高くなります。
一括償還できない
一括償還ができません。
したがって、M&AなどでEixtしようとした場合、売却資金等で一括償還(返済)できません。買収側が負債を持ち続けることになります。また買収後の利益で金利が変わってきます。
このことがM&A交渉において不利に作用するケースも実際にあったようなので、IPO以外のExitがあり得る場合には注意が必要です。
資本性ローンの活用
資本性ローンについての所感
あくまでも「融資」
出資に近い側面もある資本性ローンですが、申し込みを複数社サポートしてみて感じたのは、審査主体はあくまでも政府系金融機関の日本政策金融公庫であり、やはり目線はあくまでも「融資」であるということ。
どシードは難しい?
チームや代表者個人、アイディアで出資するエンジェル〜シードのラウンドとは勝手が違います。
もっと実績重視です。
(ですので、エンジェル〜シードでもトラクションがあれば可能性あり)
無担保無保証で上限4,000万円という点からも、アーリー寄りのシードまたはアーリーが適している印象です。
VC向けの事業計画より堅めがよい印象
あくまでも融資ですので、事業計画書は堅実なものが求められます。
思い切りJカーブを掘るVC向けの強気の計画でなく、堅実でより現実的な収益計画、資金繰り計画です。
https://magazine.inq.finance/financing/finance/plan-vc-or-bank/
新規性、競合優位性が重要
一方で、「挑戦支援資本強化特例制度」という制度名が物語る通り、研究開発が必要なプロダクト、新規性のあるサービスが求められている印象があります。
競合優位性という点でも、特許や商標登録があるとプラス。
エクイティでの調達がある方がよい
これは他の融資制度でも同じですが、エクイティでの調達を終えていて、出資者からの評価を既に受けているスタートアップの方がよいです。
減額されて2,000万円前後になるのならば・・・
4,000万円の上限金額から大幅に減額されるケースも散見されます。
資本性ローンの活用シーン
上記の所感を踏まえて、
- プロダクトやサービス、ビジネスモデルに新規性があり、
- 差し当たって数ヶ月以内のキャッシュアウトの心配がない、
ということを前提として、想定される活用シーンは次の通りです。
- 研究開発が必要で、チーム・プロジェクトができていて、大型の調達が完了して、補足的に申し込むケース
- 開発が必要だが、スモールビジネス的に売上が立っているケース
- 既に売上と利益が出ているベンチャーが、新規に自社サービスを開発/展開するようなケース
- トラクションがあり、億単位の調達を完了し、次のラウンドまで補完的にファイナンスするケース
- トラクションがあり、億単位の調達を完了し、次のエクイティ調達と同時期に追加的にデットファイナンスするケース
スタートアップであれば誰でも使えるわけではなく、かつ、有効活用できるタイミングもより限定的な制度です。
日本政策金融公庫側としても慎重に扱っている制度です。
以前は積極的に貸し出されていた時期もあったようですが、今では現場は慎重ということもあり、ヒアリングの結果、通常の融資の方が適しているというアナウンスをすることが多いです。
とはいえ、魅力的な制度であることは間違いありません。
ご興味ある方はぜひヒアリングさせてください。
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読んでくださってありがとうございます。