お問い合わせ

スタートアップがエクイティ一本足打法を脱却すべき理由|ファイナンスミックスと銀行との関係構築

創業融資 スタートアップがエクイティ一本足打法を脱却すべき理由|ファイナンスミックスと銀行との関係構築
The following two tabs change content below.

若林 哲平

株式会社INQ代表取締役CEO、行政書士法人INQ代表。 様々な領域のスタートアップの融資による資金調達(デットファイナンス)を支援。年間130件超10億以上の調達を支援するチームを統括。行政書士/認定支援機関。複数のスタートアップの社外CFOも務め、業界への理解が深く、デットだけでなくエクイティ両面の調達に明るく、対応がスムーズだとVCやエンジェル投資家からの信頼も厚い。趣味はキャンプと音楽。4児の父。

「VCからの調達が決まれば、あとはそのお金で事業を伸ばすだけ」——かつてはこの発想が主流でしたが、エクイティ市場の環境変化により、エクイティ一本足打法のリスクが顕在化しています。

資金調達の選択肢を広げ、希薄化を抑えながら成長を加速させる「ファイナンスミックス」は、今やスタートアップの必須戦略になっています。

この記事では、なぜファイナンスミックスが必要なのか、銀行との長期的な関係をどう構築するか、そして金融機関の選び方の実践的な基準を解説します。


1. なぜ今「ファイナンスミックス」が必要か

エクイティ市場に起きた変化

2021〜22年のスタートアップバブル、金利上昇やグロース市場の状況維持基準の改訂等を経て、エクイティ調達環境は大きく変化しました。

  • 調達の二極化:多くの資金を集めるスタートアップとそうでないスタートアップの差
  • 調達期間の長期化:VCとの交渉・デューデリジェンスに以前より時間がかかる
  • 評価額の調整:一時期の高バリュエーションから現実的な水準へ

こうした環境下で「エクイティが集まるまで待つ」という姿勢は、成長スピードが問われるスタートアップにとって、リスクでしかありません。

デットを組み合わせる発想

「エクイティ」の一択ではなく、「エクイティとデットをどう組み合わせるか」という発想に転換することで、以下のメリットが生まれます。

  • エクイティ調達を急がずに済む(バリュエーションを焦って下げなくて済む)
  • 株式の希薄化を最小化できる
  • 資金の使い道に応じて最適なコストの資金を調達することで、未来の選択肢が狭まりにくい

2. ファイナンスミックスをすべき3つの理由

理由① エクイティ一本足打法のリスク

前述した調達環境含め、エクイティのみに頼ることのリスクがより顕在化しています。
そもそも、エクイティとデットでは、「お金を出す側」のリターン期待がまったく異なります。

エクイティ(VC・エンジェル)デット(公庫・銀行)
期待リターン投資額の数十〜100倍元本+利息(数%)
リスク許容度高い(失敗も想定内)低い(全件回収が前提)
事業関与度経営への関与あり基本的に非関与

VCは「10社投資して1社が大化けすれば成立する」ビジネスモデルです。一方、銀行は「全件返済される」ことが前提です。この違いを理解することで、「どの資金にデットを使い、どこにエクイティを充てるべきか」というような判断の土台になります。

理由② 資金調達コストを最適化する

株式の希薄化は見えにくいですが、長期的には大きなコストです。

デットのコスト(金利)は見えやすい数字ですが、エクイティのコスト(希薄化)は将来の価値として表れるため軽視されがちです。未来の選択肢を狭めないために、調達の目的・フェーズにあった最適なコストを選択することが重要です。

理由③ 財務バランスとランウェイの確保

キャッシュポジション(手元資金)とランウェイ(資金が続く期間)は、スタートアップの生存に直結します。

  • デットを活用することでエクイティを使い切る前に資金を補充できる
  • 財務バランス(自己資本比率)を適切に保ちながら成長投資ができる
  • リスク・リターンに応じた資金の使途設計が可能になる(例:確実に回収できる設備投資にはデット、不確実性の高い新規事業投資にはエクイティ)

3. スタートアップが「おすすめの金融機関」を自由に選べない理由

では、ファイナンスミックスを実現するため、融資検討をする際に、どの銀行を選択するか?

これを考える上で「どの銀行がスタートアップに積極的ですか?」という質問を受けることが多くありますが、単純に答えることが難しい理由があります。金融機関の選択は、3つの制約によって自由度が制限されているためです。

制約① エリア(縄張り)の問題

銀行・信用金庫は法律や内規によって「営業エリア」が定められています。特に信用金庫は地域金融機関であり、事業所・本店所在地がエリア外の企業には融資できないケースがあります。

「融資に積極的な信用金庫」として有名でも、自社の所在地が対象エリア外なら利用できません。まず「自社の所在地をカバーしている金融機関」を前提に探す必要があります。

制約② 担当者の異動とリレーション維持の難しさ

銀行員は定期的に異動します。せっかく関係を築いた担当者が異動すると、新しい担当者とゼロから関係を構築し直す必要があります。

このため「担当者個人」だけでなく、「支店全体・支店長との関係」を作っておくことが重要です。担当者と決済者(支店長など)の両方にコミットしてもらうことで、異動後のリスクを下げられます。

制約③ フェーズによる「ロット感」の違い

銀行にはそれぞれ「主なターゲットの融資規模」があります。

  • メガバンク:数億円〜数百億円規模
  • 地銀:数千万円〜数億円規模
  • 信用金庫:数百万円〜数千万円規模

シード期に数百万円〜数千万円を借りたい場合、メガバンクに行っても「案件規模が小さすぎて担当者が動けない」という実態があります。フェーズに合った金融機関を選ぶことが先決です。


4. 成長フェーズ×スタンスで金融機関を選ぶ3つの軸

前述から、金融機関選びの実践的な基準として「エリア・フェーズ・スタンス」の3軸があります。

軸① エリア

まず自社の所在地をカバーしている金融機関に絞ります。

軸② フェーズ(ロット感)

自社が現在必要としている融資額に対応できる金融機関を選びます。シード〜プレAなら信用金庫・公庫、シリーズA以降なら地銀・メガバンクが目安です。フェーズ別の詳細な金融機関マッピングはこちらの記事を参照してください。

軸③ スタンス

同じ種類の金融機関でも、スタートアップに対する姿勢には大きな差があります。スタンスの把握方法:

  • 創業融資の実績件数(信用保証協会のデータや業界内の評判)
  • スタートアップ専門部署の有無(「スタートアップ支援室」などの存在)
  • 実際に融資を受けた起業家からの口コミ(業界ネットワーク経由)

スタートアップに積極的な金融機関の情報は、公開データだけでは限界があります。INQのような専門家や、先輩起業家からのリアルな情報が最も精度が高い。

VCバックスタートアップはメガバンクも早期から接触を

VCから出資を受けているスタートアップは、シリーズA以降でメガバンクとの取引が視野に入ります。「今すぐ借りなくても」シード期からメガバンクの担当者と会い、事業を知ってもらう関係を作っておくことが、将来の大型調達への布石になります。


5. 創業期から始める金融機関との関係構築

創業期にやっておきたいこと

① 複数の金融機関と早期に取引を始める
1行だけに依存するのはリスクです。公庫・信用金庫・地銀の3〜4行と並行して取引を始め、それぞれと信頼関係を積み上げます。「競合させる」ではなく「複数の味方を作る」発想です。

② 定期的な情報共有を続ける
融資が終わったら連絡を絶つのではなく、月次・四半期ごとに業績報告・近況共有を続けます。「この会社の経営は透明だ・誠実だ」という印象の積み上げが、次の融資を呼び込むひとつとなります。

③ 担当者に「稟議が書きやすい材料」を渡し続ける
融資実行前~中に、担当者が「この会社は伸びている」と上司に報告しやすい状態つくるため、良いニュース(新規顧客獲得・KPIの改善)があれば積極的に共有します。

創業期にやってはいけないこと

  • 財務リスクを高める行動(役員への過大な貸付・経営実態と乖離した決算など)
  • 過度な借入(返済能力を超えた借入は信頼を損なう)
  • 信頼を損なう行動(返済の遅延・報告のない経営状況の悪化など)

6. プロパー融資に向けた長期戦略

プロパー融資(信用保証協会の保証なし・銀行の独自判断による融資)は、スタートアップの資金調達において重要なステップです。

プロパー融資のメリット

  • 保証料がかからないため調達コストが下がる
  • 金融機関との「本当のパートナーシップ」の証

プロパー融資に向けてやっておくべきこと

PMFの達成
事業モデルが検証され、安定した収益の見通しが立っている状態。これがないと「将来の返済原資」が説明しにくい。

決算書を「良好な」状態に保つ
プロパー融資の審査は保証協会付き融資より厳しい。役員貸付金・仮払金など不自然な科目は整理しておく。

取引行を複数持つ
1行との深い関係も大切ですが、複数行と実績があると「この会社は複数の金融機関から信頼されている」という証拠になる。

長期的な関係構築(タイミーの事例から見えること)
2024年に約1,760億円規模の大型上場をした株式会社タイミーは、創業期から地域の金融機関と真摯な関係を積み上げ、成長フェーズでメガバンクのプロパー融資・シンジケートローンを実現しました。これは「ある日突然」実現したものではなく、数年にわたる地道な関係構築の成果です。


7. まとめ

エクイティ・デット・ベンチャーデット・補助金等を組み合わせる「ファイナンスミックス」は、資本コストを最適化し、成長の選択肢を増やす戦略です。

金融機関との関係は、融資が必要になってから始めるのでは遅い。「まだ借りなくてもいい時期」に種をまき、「本当に必要な時期」に収穫する——これが長期的なファイナンス戦略の基本です。

ファイナンスミックスの設計と金融機関との関係構築については、INQの無料相談でご支援しています。


この記事で参照したPodcastエピソード:

より詳しい解説はPodcastでお聴きいただけます。

カテゴリの最新記事

▶いくら借りれるか診断 専門家に無料相談