若林 哲平
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「創業融資の自己資金って何のこと?」
「自己資金の範囲を知りたい」
「自己資金要件がない融資制度ってあるの?」
創業融資において自己資金は非常に重要な要素です。
自己資金の条件は融資制度によって異なります。
本記事では創業融資における自己資金について解説します。自己資金の範囲や自己資金要件のない融資制度についても紹介していますので参考にしてみてください。
日本政策金融公庫の新創業融資の進め方については「創業融資の進め方ガイド【2022年最新保存版】」で詳しく解説しています。
自己資金とは?
融資における自己資金とは「事業に投資する予定の純然たる自己所有の資金」を意味します。
「自己資金」は融資において、以下を見極める意味でも非常に重要な要素です。
- 創業期の運転資金
- 代表者の起業に対する本気度
- 代表者の創業までの準備状況(行き当たりばったりでないか)
- 代表者の稼ぐ力
自己資金の条件は、融資制度によっても異なります。
以下の融資制度における自己資金の条件について解説します。
- 日本政策金融公庫の新創業融資制度
- 信用保証協会の制度融資
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
銀行融資において自己資金は大変重要な審査項目です。
創業者が利用する融資で最もメジャーと言っていい日本政策金融公庫の「新創業融資制度」には申込対象者の要件として自己資金の要件が以下のように定められています。
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
新創業融資制度|日本政策金融公庫
かつては自己資金は総所要資金の「3分の1以上」を用意しなければならないというハードルがありましたが、現在では「10分の1」に緩和されています。
信用保証協会の制度融資
創業者のもう一つの選択肢である「信用保証協会の制度融資」では大きく「東京都」と「自治体(区や市など)」の2つの制度に分かれます。どちらを利用するかは創業年数や自己資金などのその他自治体ごとに定められた要件によって異なりますが、自己資金要件は以下のようになっています。
東京都 | 自己資金要件なし |
自治体 | 1/2や1/3(自治体によって要件が異なる) |
制度融資については「創業期でも受けやすい?制度融資の全体像と活用方法」で解説しています。
自己資金として認められるもの
自己資金の定義は**「事業に投資する予定の純然たる自己所有の資金」**です。
つまり、事業に投資する予定のない所有しているだけの資金は自己資金には含まれません。
自己資金として認められるものを解説します。
- 友人・知人・家族からの出資
- 協力金・支援金・贈与
- みなし自己資金
友人・知人・家族からの出資
友人・知人・家族からの出資は、自己資金に認められるケースがあります。
出資は自己資金の定義である「事業に投資する予定の純然たる自己所有の資金」には該当しませんが、契約書などを一筆書いてもらっているなど出資者がハッキリとしている場合は自己資金として認められることがあります。
自己資金に認められなくとも、周囲の方からの協力を受けられているということと、金額の担保があることから審査上の加点ポイントにはなりえます。
出資金は通帳に入っていなければならないという訳ではなく、例えば出資の約束をメールでしていたり、出資契約書を交わしている等の根拠があるとプラスになるケースがあります。
しかし、自己資金を貯めてきた場合の評価から比べると出資での自己資金換算はポイントが落ちます。
10万円の自己資金で600万円の出資を受けてスタートする事業などでは、他者(社)への依存が大きく準備不足という評価になる恐れもありますので、注意しましょう。
協力金・支援金・贈与
両親からの支援金などは自己資金と認められる場合があります。
ただし、例えば両親の口座からご自身の口座に振り込まれているのが通帳上で確認できることが求められます。
ご自身の通帳で両親からの入金が確認できることはもちろん、両親の通帳の提出を求められたり、職業や資産背景をヒアリングされることもあり得ます。
こちらも、出資と同様に自己資金に比べて支援金の割合が多い場合は、準備不足と評価されてしまいますので、注意が必要です。
みなし自己資金
みなし自己資金とは、創業に必要な物件の取得や設備の購入など必要経費を既に出費している場合、その領収書は支払いの記録を持って自己資金とみなしてもらう考え方です。
ただし、資格を取るために予備校に通った経費などはみなし自己資金とは認められないなど、判断が微妙な部分もあります。
自己資金として認められないもの
自己資金として認められないものについて解説します。
- 消費者金融からの借入れ
- 友人・知人・家族からの借入れ
- タンス預金
- 車や時計などの動産
消費者金融からの借入れ
消費者金融からの借入れは、自己資金ではありません。
消費者金融とは個人に無担保で金銭の貸付けをする貸金業です。
有名なところではアコム・プロミス・アイフルなどが挙げられます。
こうした貸金会社から一時的に借りてきたお金は**「負債」に当たりますので、自己資金と主張した場合は見せ金の扱い**になります。
どこから借りてきたかなんて分からないから良いのでは?と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、金融機関が注目しているのは残高ではなく**「通帳に溜まってきた経緯」であり「資金の出処」**ですので、経緯や出処の説明が必ず求められます。
担当者の納得が行く説明が得られない場合、自己資金としては否認されます。
尚、金融機関は必ず個人のクレジットヒストリーの掲載されている個人信用情報を取得しますので、こうした消費者金融からの借入れも隠すことはできません。
個人信用情報については「日本政策金融公庫の審査でみられる信用情報とは?CICの確認と見方」で解説しています。
友人・知人・家族からの借入れ
「融資の見せ金を作るために貸してくれないか」と友人・知人・家族から借りたお金も、自己資金とは認められません。
タンス預金
タンス預金は自己資金として認められません。
理由は**「根拠を示せない」**からです。
いくら給料から差し引いて貯めてきたと主張したところで、通帳のように根拠を示すことができません。
金融機関の担当者も「他から借りてきたのか」「自分自身で貯めてきたのか」判断ができないため自己資金とは認められないのです。
車や時計などの動産
車や時計などの動産は、いくら「時価価値◯百万円!」と言ってみても自己資金とは認められません。
ただし、株の利益確定や車の売却などにより現金化できている場合は、自己資金として認められます。
上場株や解約返戻金などで、すぐに現金化できるものについては、自己資金または自己資金に準じる資産としてプラス評価となります。
自己資金要件がない融資制度とは?
このように自己資金は創業融資の審査上、大変重要な項目です。
しかし自己資金が申込の必要条件とされているのは、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や「保証協会の融資制度」などです。
その他、下記のように自己資金要件がない融資制度があります。
また、一定の条件を満たすと自己資金要件がなくなるケースもあります
女性・若者・シニア創業サポート事業
東京都だけ限定の融資制度で、預託金を信用金庫・信用組合に預けることで運用している「女性・若者・シニア創業サポート事業」という融資制度があります。融資を申し込みするに当たっての自己資金の要件はありません。
自己資金要件が緩和される条件とは?
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」の自己資金の要件は、以下のように一定の条件を満たせば自己資金を満たしているものとみなされます。
代表的なものを抜粋します。
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
(1)現在の企業に継続して6年以上お勤めの方 (2)現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方
- 大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
1.や2.は創業する事業と同じあるいはそれに関連した業種での経験が一定以上ある場合、3.は区市町村が行っている特定創業支援等事業のセミナー等の修了者(認定創業者」として証明書を受領している場合、4.は他の金融機関との同時に協調融資を受ける場合です。
その他の条件については上記の日本政策金融公庫のページをご確認下さい
創業1年を超えて確定申告をしている場合
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、創業から1年経過している場合にも自己資金要件がなくなります。
代わりに決算書または確定申告書の提出が求められます。
そして、創業から2年が経過してしまうと「新創業融資制度」は利用できません。
代わりに「セーフティネット保証」「普通貸付」や「マル経融資」を使うことになります。
これらの制度も決算書が必須書類となり、自己資金要件はありません。
自己資金についての考え方と注意点
自己資金についての考え方と、注意点を解説します。
自己資金要件がないことが良いこととは言い切れない?
自己資金要件がなくなるということは、融資のハードルが下がる、ということになるのでしょうか?
自己資金は貯めてあればそれだけで評価に繋がりますが、決算書が重要視されることになると事業の成績が評価に直結してきます。
特に事業一年目で黒字化できる事業はほんの一握りの事業だけです。
創業期は早めに融資を受けておくという判断は、自己資金要件の面からも考えることができます。
保証協会を使った自治体の制度融資においてほどんどの自治体は1年間が利用期限となっています。
規定された創業の期間を超えてしまうと創業以外の制度を利用することになるため、自己資金要件はなくなる代わりに決算書が審査の主な対象になります。
「見せ金」は有効か?
融資審査は自己資金が多ければ多いに越したことはありません。
しかし「残高があればなんでも良い」ということではありません。
いわゆる**「見せ金」**と呼ばれる、消費者金融から借りてきたお金や友人、知人、家族に融資審査のためだけに一時的に借りた資金は自己資金には含まれません。
まず見せ金は通用しないと考えた方がよいでしょう。
金融機関の通帳の見方
では、金融機関はどのように自己資金を審査しているのでしょうか?
金融機関が特に重視するのは、その残高が溜まってきた経緯であり、残高そのものではありません。
創業者が創業のためにいかにコツコツと準備をしてきたか、という部分を見るのです。
したがって、自己資金と主張している金額が通帳上に突然ポンと振り込まれている場合には、当然怪しまれ、その経緯説明が求められます。
「コツコツ」の定義とは
「コツコツ貯めてきた経緯」というのは、具体的にいつからいつまでを指すのでしょうか?
実はここには明確な要件定義はなく、審査基準は個別具体的です。
しかし一般的には**「半年以上」が一つの基準**となっています。
半年以上コツコツと貯めてきた経緯が通帳で見て取れて、かつその資金の出処が給与や売り上げなど、正当な根拠を示すことができれば自己資金として認められる可能性は高まるでしょう。
自己資金を準備して創業融資を成功させよう
本記事では自己資金について解説しました。
制度上、自己資金要件がない場合であっても、自己資金は創業期の銀行審査において非常に重要な要素です。
通帳の残高を見ているわけではなく「どのように溜まってきたのか」を見ています。
事業計画書はもちろん大切です。
ただ事業計画はある意味では実績とは違い、やってみないと分からない部分も多くあります。
失敗の可能性ばかりを考えていては銀行も融資はできません。
なぜ金融機関が創業者の自己資金を審査するかといえば、それはつまり自己資金に創業の熱意や計画性が表れているからなのです。
昨今、自己資金要件が緩和されてきているとはいえ、実際の審査では依然としてかなりのウェイトを占めており、自己資金要件がない制度でも通帳を求められることもあります。
融資を検討している方で、もしタンス預金をしている方がいらっしゃれば、すぐに預金をして通帳に記録しましょう。